サファリの手帖 <アート&キュリオ> [Top Pageに戻る]MasaiBeads

Art & Curio
アフリカの美術

ブラックアフリカの創作物を<美術品>と見るか単なる<土産物>と見るか、判断が難しい。
欧米や日本と異なり、個人の創作物に特別な価値を見出し高価な商品として流通させるような環境が歴史的になかったから、ある物が美術品として<制作>されたのか土産物として<製作>されのか、判然としない。先進社会で美術品市場を歴史的に支えていた貴族や宗教団体、大富豪などがブラックアフリカには存在しなかったのだから無理もない。
それに、この二者を厳密に分け隔てる理由も特にないのかも知れない。

アフリカの美術品は、だから、日常の用や儀礼祭礼に用いる器具道具類に装飾を施したものや、いわゆる「魔除け」の類が主流となる。
しかし、だからと言って質が低いというわけではない。
黒檀を使ったマコンデ彫刻がキュービズムへ移行するピカソに多大なインスピレーションを与えたことは知られているが、20世紀を代表する芸術家の1人に多大な刺激を与え得るのだから、この彫刻群の価値は推して知るべしだろう。
実際、よく出来たマコンデは見る者を一気にアフリカ世界に引き込み釘付けにする力に溢れている。

そんなアフリカン・アートの幾つかを、サファリの手帖流にご紹介したい。

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TingaImpala







TingaTortoise
ここに掲げた「ティンガティンガ」という一群の作品。
日本でも大規模な展覧会が幾度か行われたからそれなりに知られてもいることだろう。タンザニアで考案され、多くの画家による同種作品がたくさん描かれているものだ。
が、これにはアフリカのアートシーンの事情がよく現れていると思う。

「土産物ではない、本物のティンガティンガはどこで買えますか?」
そんな質問をよく受けるけれど、ティンガティンガには本物も贋物もないので答えに窮してしまう。
この手法には、複数の絵描きによって工夫され、一つのパターンとして完成されたという、いわば開発経緯がある。この絵描きたちが何を目指して共同作業を行ったかと言えば<売れるものを作ろう>としたのである。それも画商相手ではなく、道端の土産物屋で観光客の目にとまるものを<生産>しようと、共同作業に励んだのだった。
ともかく、絵の具は高価だ。一枚の絵に必要な全色を1人で賄うのは難儀である――貧しい絵描きたちの苦肉の共同作業だった訳である。

そうしてめでたく売れ筋商品の開発に成功した一群の絵描きたちが始めにあり、腕に覚えのある者たちが次々に模倣する。
絵画を一点制作の貴重品として扱う社会では理解しにくいことだが、土産物の置物と考えれば納得が行く。アイヌ民族の熊の木彫りは同じような物がたくさんあるけれど、見る目を持って見れば作者の手筋の良し悪しはおのずと見える。
ティンガティンガに限らず、アフリカの美術品にはこういうものが数多くある。これらには本物も贋物もなく、要は、自分の目で見て心に沁みるものがあればそれが良い作品――本物である、ということだろう。
その証拠に、ここに並んだ4枚のティンガティンガ。
それぞれに魅力的な作品と思うけれど、いかがだろうか。
TingaBuff







TingaEle

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ZaireMaskWhiteZR-MSK-WhiteR ザイール(現コンゴ民主共和国)産のマスク

縦割りにした丸太に顔面を彫りだし、裏面はくり抜いてある。高さは33cm。材は軽く、耳の部分にあけた穴に紐を通して頭部に縛り着けられるようになっている。目の部分も素通しになっているから、これは実際人が顔に着けて使うものだ。軽いので頭部に着けて激しく踊っても安定するし、苦にならない。

この面は、激化する内戦から逃げ出した旧ザイール人が、避難生活の生活資金用に売却目的で持ち出してきた物の一つだが、片言のスワヒリ語とフランス語以外は部族語しか話さぬ人で、値段交渉以外、用途など細かな話は聞くことが出来なかった。
しかし、イトゥーリの深い森の中、村人が集い燃え盛る焚き火を囲んでバナナ酒を酌み交す満月の夜。太鼓が持ち出され、即興歌が面白おかしく座を賑わすと、面や簡単な装束を身にまとった誰彼が森の精霊を演じて踊りだし宴はますますたけなわとなる――と、そんな勝手な想像を掻き立てられて、森に響く遠い太鼓を聞いたような気持ちになる。

同時に購入したその他のザイール製マスク
上と同様、いずれもかぶれる様になっている
H22cm X W14cm X D8cm H20cm X W19cm X D9cm H27cm X W17cm X D9cm

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ZBW-Stone-Mzee ジンバブウェ産 石の彫刻
アフリカ南東部ジンバブウェは、国名の由来である「グレート・ジンバブウェ」遺跡で知られる。剥離させた石を漆喰を使わず、ただ積み上げて造られたこの石造都市遺跡は、驚嘆に値する規模である。
その規模の大きさ緻密さに、発見したヨーロッパ人たちは「未開のアフリカ人にこんなものが造れた訳はない。シバの女王の隠れ王宮だったのでは?」と推理したという。今となってはお笑い種の蒙昧ぶりだ。
銅と共に豊富なこれら岩石を使った装飾品は数多い。ここに掲げた2点は土産物屋で買った、そう高価なものではないが、土産物でこのレベルを作れるこの国の<美術力>は注目に値する。
ちなみに、このHPでメールアイコンに使っているのは、左の頭部正面像を切抜いたものである。
ZBW-Stone-Hippo

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ケニア若手画家(カンバ族)の作品

村で催される「ンゴマ」(エッセイ集「ンゴマについて」をご参照下さい)をモチーフにしている。 村人が集まり太鼓を叩いて歌い、地酒を飲んで――随所に配されている瓢箪型は地酒の容器――過ごす、一時の楽しみが溢れ出す作品。 登場人物たちはその装束から見て「マサイ族」をかたどっているらしい。 が、作者はカンバ族であり、左に描かれている建物の草葺屋根もカンバ族の伝統家屋に見える。それに、マサイ族は太鼓を使わない。
ここにもアフリカの美術・工芸作家たちの直面しているジレンマが現れているように思う。
カンバ族の作者が自分の体験したンゴマの様子を描くとき、登場人物にマサイ族を持ってきてしまう。――その方が観光客の目を引き、売れる確率が高くなるからだ。 もちろん、絵画が事実を忠実に踏襲する必要はないから構わないと言えばその通りだ。
ただ、「売れるものを作る」というテーマが常に創作の動機であることが創作行為に及ぼす影響ということを思う時、作家の自由な創造力を損なうこともあるのではないか、と思うのである。
しかし、ここに掲げた二点の作品。指摘したような不整合を感じさせない、エネルギーに満ちた作品ではなかろうか。
この作家の大判作品がナイロビのインターコンチネンタル・ホテル、レセプションデスクを長らく飾っていたが、改装工事に伴い今は会議室の壁を飾っている。 下の作品はいずれもカンバスにアクリル。 現物の色鮮やかさをここに再現できないのが残念。

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この他のコレクションも随時アップする予定です。

アフリカン・アートに特別の関心をお持ちの方は、
それ以前でも、どうぞご遠慮なくお問い合わせ下さい。


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